野辺山高原における後期旧石器時代の緑色チャート利用

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信州中央高地、野辺山高原の旧石器時代遺跡においてポピュラーに利用されている石材がある。「緑色チャート」と呼称される石材で、濃い緑の地に霜降りのような白い縞をもつ外見の石材である(図1)。時期的にはナイフ形石器群、尖頭器石器群、細石刃石器群、および草創期石器群において以下に利用が確認される。本研究では、この緑色チャートの石材利用について検討してみたい。
・三沢遺跡 ナイフ形石器群(「砂川段階」)
三沢遺跡においては、緑色チャートが308点中14点、重量では2581.6g中160.1g(約6%)が確認される。器種としては、石刃1、剥片12、砕片1点となる。
・中ッ原5B地点 細石刃石器群(削片系)
全搬入石材6143g中、緑色チャート2835g(46.1%)、黒曜石1803g(29.3%)、チャート630g(10.3%)、その他875g(14.3%)となっている。この遺跡の細石刃資料のほとんどは黒曜石だが、緑色チャートの削片も含まれている(図1-2)。稀にはこの石材で細石刃が製作されたことがうかがえる。
・中ッ原1G地点 細石刃石器群(削片系)
全搬入石材6143g中、緑色チャート239g(6.7%)、黒曜石3191g(90.0%)、チャート116g(3.2%)、その他2g(0.1%)となっている。
中ッ原5B地点と中ッ原1G地点は遺跡間接合においてその同時性が確認されているが、緑色チャートの利用差がかなり大きい。単純にその多寡が比較されず、こうした遺跡間差も考慮しておく必要がある。
柏垂遺跡では、草創期とみられる柳葉形尖頭器(植刃)にもこの石材が利用されている(図1-4)。立石A遺跡では、微隆起線文土器に伴う掻器にこの石材が利用される。
この緑色チャートの産出地点を確認すべく、1995年より筆者らは調査を行っている(堤・吉田1996)。しかし、野辺山高原のある長野県側では、これまでその産出地点の確認には至っていない。この石材は、野辺山と隣接する山梨県北部では縄文時代の後半期まで多用されるものであり、県境の山梨側に産地がある可能性が高い。産出地点については、分布頻度などを参照しながら、踏査を重ねており、状況を明らかにできればと考えている。
なお、本誌のモノクロ写真では、この石材の特徴ある色などの理解に限界があるため、カラー画像をこのwebに掲載している。
本研究遂行には、堤隆に交付されたJSPS科研費基盤研究(C)「神子柴系石器群の生成とその性格をめぐる研究」(課題番号17K03216)の一部を利用した。

明治大学黒耀石研究センター 堤  隆

引用文献
堤  隆・吉田政行 1996「八ケ岳東麓における石材環境と旧石器時代の石材利用」『中ッ原第1遺跡G地点の研究』,228―252頁, 長野, 八ケ岳旧石器研究グループ

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